出会いは、当時の恋人が職場のお歳暮でもらった、エール・フランスからのお食事券でした。代官山は近かったので、そこにしよう、と安直に決めて彼のバースデーに予約を入れました。
新入社員の彼とアルバイト暮らしの私だったので高級レストランとは程遠く、姉に借りたワンピースのスカートは少し短く、彼は仕事に行く時のスーツ姿でした。外は雪が降っていました。
コツコツと降りる階段の下には美しい庭園、出迎えられてコートを脱ぎ、通された席へ。パチパチと暖炉の火が部屋を暖め、コースメニューのチョイスを説明してくれた声が少しずつ緊張をほぐしてくれ、それぞれ違う物を頼んでシェアして食べる事に。メインに彼は暖炉の火で焼いたステーキ、私はオマール海老。ワインはソムリエさんと相談して予算をこっそり伝え、それだったら、と選んでくれたものに。
どのお皿も素晴らしく、デザートワゴンは煌びやかにうつくしく、ただ甘いものはさほど得意ではなかったので、カシスのシャーベットだけを頼むと「それだけでいいんですか?」とにこやかに誘うように言われ、どきどきしながら少しずつプディングやケーキをお皿に盛り付けてもらい、残ったワインと一緒に食べる時間は至福の気分。違う世界にいるようなふわふわした気持ちで、彼のバースデーの記念に暖炉の前で写真を撮ってもらいました。帰り道に「エール・フランスに足を向けて寝られないね」などと笑いあった冬の夜。
そして、ここの名物料理・カスレとの出会い。これはすさまじい衝撃で、良質なお肉のジュースと深い味わいのブイヨンなど、素材の持つ全ての旨みをオーブンでじっくり染ませたフランス産の白インゲン豆は眩暈がする程おいしく、お肉が食べきれない位濃厚で贅沢な味。カスレとサラダにパン、そしてワインだけでも満足してしまいそうなのですが、やっぱり他のお料理も・・・とコースを食べたくなるのがこのレストランの魔力。毎年1月2月頃に二回、カスレの会があり、120人が一斉にカスレを食べるとの事。それだけのファンが集まる事にもびっくり。まだまだ知らない世界があるのだなぁ、と思わずうっとり。飽きる事がありえないレストランだなぁ、と思いつつまた、気づくとたっぷりお皿に盛られたデザートを前に。甘いものでも、ここでなら幾らでも食べられる気がして、ついつい選び過ぎてしまう事になるのです。
ムッシュ・パッションとの出会いもなかなか衝撃的で、友人とディナーを食べに行き、挨拶とメニューを聞いて去って行った筈が、後でまたテーブルのカスレに挑戦する男友達の肩を肘でこつんとつついて「やるねぇ」と満面の笑顔。長崎出身の奥様の話や日本の良さなど色々とお喋りしたりと、本当に気さくでチャーミングな紳士。取材の話を持ちかけた時も、ディナーを食べる前だったのですが、「お話があるの」と言うと「いい話?悪い話?」と眼鏡をかけ、「いいお話!」と言ってテーブルに来てもらい、パッションを紹介するページを作りたい、と話して資料を見せると「カスレが売れすぎちゃったらどうしよう?」とにっこり。一緒に写真を撮らせてもらい、ページを飾る事の許可をもらって、撮影にもあれを飾ろう、こっちを飾ろうと楽しい時間を過ごせました。
撮影中に「素晴らしいってフランス語でなんて言うの?」と聞くと「セラヴィータ」と教えてくれたので、ムッシュ・パッションは「ケ・セラヴィータ」と歌いながら、私はシャンパンを飲みながら「セラヴィータ!!」と連呼。撮影が終了し、料理を食べながらも「セラヴィータ!」
カスレのシーズンは3月末(※注)まで。
大好きな人、大切な人、そんな人たちに一緒に味わってもらいたい。
寒い冬に、幸せなディナーとぬくもりを。
優しく、暖かく、チャーミングなスタッフが、そして暖炉の炎が迎えてくれます。
最初の冬、ソムリエさんに「夏は暖炉はどうするんですか?」とふと聞いたところ。
「そうですねぇ、テーブルを暖炉から極力離します」
チャーミング過ぎるパッションに「ケ・セラヴィータ!」
※注:4月頃まで出すこともあるとのこと。詳しくはレストラン・パッションまでお問い合わせください。
文:水野 沙羅
写真:重田 和豊
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